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AI活用

採用システムの全面改修を、たった一日で ― AI駆動開発がもたらす「内製スピード」の現実

2026年6月7日9分で読める
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採用システムの全面改修を、たった一日で ― AI駆動開発がもたらす「内製スピード」の現実

「採用システムを刷新したい」。そう考えた経営者が次に直面するのは、たいてい見積書です。要件定義に一ヶ月、開発に数ヶ月、費用は数百万円。そして完成する頃には、現場が欲しかったものは少し変わっている――。これが、長らくシステム開発の「常識」でした。

私たち IIWAYO.TECH は先日、自社の採用システムを一日で全面改修しました。応募フローの作り直し、AIによる選考支援、応募者向けマイページ、通知の自動再送まで。外注に出せば数ヶ月かかる範囲を、一営業日で本番に乗せたのです。

これは特別な魔法ではありません。AIを「道具」ではなく「開発そのものの主軸」に据えると、システム開発のコスト構造とスピードがどう変わるのか。その現実を、経営者の視点でお話しします。技術の話というより、経営判断の話です。

この記事は同じ取り組みを3つの立場で書いた、3部作の1本です。

「採用」は、多くの会社で静かなボトルネックになっている

採用は、コストセンターのように扱われがちです。しかし実際には、採用の速度と質が、その後の事業速度を直接決めます。良い人材が一人入るかどうかで、半年後の事業の景色は変わる。にもかかわらず、採用の「仕組み」に投資する会社は驚くほど少ない。

具体的に考えてみてください。応募者の半分が「フォームが面倒」で離脱しているなら、それは集めた応募の半分を、入口で捨てているのと同じです。求人広告にかけた費用の半分が、フォームの一画面で蒸発している。書類確認に管理部門が忙殺されているなら、本来やるべき面談や意思決定が後回しになり、優秀な候補者は待っている間に他社へ流れます。採用のボトルネックは、採用部門だけの問題ではなく、事業全体の速度を落とす静かな漏れなのです。

問題の根は、多くの経営者がこれを「人手で頑張る話」だと捉えていることにあります。応募が増えたら人を増やす、確認が大変なら残業で乗り切る。しかし本当は、その大半が仕組みで解ける問題です。仕組みで解けるものを人手で耐えている限り、採用は永遠にボトルネックのままです。

「8割できている」システムは、たいてい資産ではなく負債である

ここで、今回の改修で私たちが直面した現実を、正直にお話しします。

実は、私たちの採用システムには「8割方できている」と言える土台がありました。応募ページも、フォームも、面接管理の枠も用意されていた。しかし――その判定機能は、一度も実際には使われていませんでした。動いていなかったのです。

経営者の方に強くお伝えしたいのは、動かないシステムは、完成度が何割であっても0点だということです。「8割できている」という報告は、しばしば最も危険な報告です。残りの2割こそが「実際に使えるようにする」という最も難しい部分であり、そこを越えられなければ、投じた費用は資産ではなく負債になります。倉庫に眠る在庫と同じで、貸借対照表の上では存在していても、一円も生んでいない。

外注したシステムが「納品はされたが現場で使われていない」という話は、決して珍しくありません。これは発注側の責任でも、開発側の悪意でもなく、「作って納める」モデルそのものの構造的な弱点です。だから今回、私たちは「8割の続きを足す」のではなく、「実際に毎日使われるものを、初期構築として作り直す」という姿勢で臨みました。完成度ではなく、稼働しているかどうか。経営者が問うべきは、いつもこちらです。

外注なら数ヶ月。それを一日に変えたもの

今回の改修で私たちが使ったのは、AI駆動の開発スタックです。具体的には、Lovable(AIがコードを書くアプリ開発基盤)、Supabase(データベースと認証の基盤)、そして Claude Code(AIによる開発・自動化)を組み合わせています。

ここで強調したいのは、ツールの名前ではありません。「人間が一行ずつ書く」前提を捨てると、開発のリードタイムが桁で縮むという事実です。設計の意図さえ正確に伝えられれば、実装の大部分はAIが担います。人間は、何を作るべきか、どこにリスクがあるか、という最も価値の高い判断に集中できる。コードを打つ時間ではなく、考える時間に資源を寄せられるのです。

数ヶ月かかっていた工程が一日になる。これは、単に「速い」という話ではありません。意思決定そのものの自由度が変わる、という話です。これまでは「これを直すと数十万円と一ヶ月かかります」と言われた瞬間に、多くのアイデアが机の上で死んでいました。試す前に、コストが芽を摘んでいた。それが「思いついたら、その日のうちに試せる」状態になると、判断の基準が変わります。やるかやらないかを、コストの大きさではなく、価値の有無で決められるようになる。これは経営にとって、静かですが決定的な変化です。

AIに任せること、人が握ること――線引きがガバナンスを決める

採用にAIを使うと聞くと、「機械が人を選ぶのか」と身構える方がいます。ここはまさに、経営判断とガバナンスが問われるところです。

私たちの設計はハイブリッドです。明らかに条件を満たさない応募の整理など、間違えようのない部分だけは自動で処理します。一方、合否につながる評価は、AIはあくまで「推奨」を出すだけ。最終的な確定は、人間が画面上でワンクリックして行います。AIが何に着目し、どこを根拠にしたのかは管理者に提示され、人がそれを見て納得した上で決める。

なぜここまで慎重にするのか。それは、誤りのコストが方向によって全く違うからです。誤った自動却下は、一人の候補者の機会を奪い、企業の信用とコンプライアンス上の責任を一度で損ないます。しかも不採用通知は撤回が難しい。一方、誤って通過させてしまっても、後段の人間の目で気づけます。だから、取り返しのつかない判断にはAIを単独で立たせず、救済可能な判断にだけAIの推奨を使う。これは技術の制約ではなく、説明責任を誰が負うかという経営の設計です。

「AIに任せたら誰も責任を取れない」という事態を避けるために、最初から人間の確定を判断の経路に組み込んでおく。どこまでAIに任せ、どこから人が責任を持つかを明示的に設計することこそが、AI活用の品質とガバナンスを決めます。 これは採用に限らず、与信、審査、評価といった、あらゆる「人を判断する業務」へのAI導入に共通する原則です。

応募体験の改善は、そのまま「採用力」になる

今回の改修では、応募者の体験も大きく見直しました。履歴書をアップロードすれば項目が自動で埋まり、途中でやめても続きから再開でき、送信後はそのまま選考へ進む。応募者向けのマイページでは、選考の進み具合がいつでも見えます。

これは「親切心」だけの話ではありません。応募の途中離脱を減らし、選考中の辞退を防ぎ、自社の印象を上げる――そのすべてが、採用の歩留まりという経営指標に直結します。候補者体験(CX)への投資は、求人広告費よりも費用対効果の高い採用施策になり得ます。広告は応募の「入口の数」を増やしますが、体験は入口から内定までの「通過率」を上げる。同じ一人を採るために必要なコストが、体験の改善で静かに下がっていくのです。

さらに言えば、応募体験はその会社の仕事ぶりの縮図として候補者に伝わります。応募フォームが雑な会社は、入社後の業務も雑だろうと推測される。逆に、応募という小さな接点が丁寧であれば、それは「この会社は細部に手を抜かない」という無言のメッセージになります。採用広報に大きな予算をかける前に、まず自社の応募フォームを最後まで自分で入力してみることを、経営者にはおすすめします。

内製化の本当の価値は、「変更コストがゼロに近づく」こと

外注の最大の弱点は、完成ではなく「その後」にあります。少し直したいだけでも、見積もり、発注、納品の往復が発生し、現場のスピードが死ぬ。一文字の修正に、稟議と待ち時間がついてくる。

今回の改修も、一度で完璧だったわけではありません。実際にテストする中で不具合が見つかり、その場で何度も直しました。応募フォームの項目を組み替え、文言を調整し、デザインを整える――その一つひとつが、外注なら追加費用と待ち時間を生むものです。内製でAIを使えば、それが「思いついてから数十分」で反映されます。

内製化の本質は、人を抱えることではありません。変更のコストとリードタイムを、限りなくゼロに近づけることです。 ここを取り違えると、「内製化=エンジニアを大量採用すること」だと誤解し、かえって固定費を膨らませます。本当に重要なのは、変更が安く速くなること。それが実現すると、システムは「作って終わるもの」から「事業と一緒に育つもの」へと性質を変えます。市場が動けばシステムも動かせる。この追従性こそが、変化の速い時代における最大の競争力です。

経営者が、いま知っておくべきこと

AIは、エンジニアの仕事を奪う道具ではありません。経営の意思決定を、その日のうちに形にするための道具です。重要なのは、「何を作るべきか」を見極める力と、「どこに人間の責任を残すか」を設計する判断であり、それはまさに経営の領域にあります。AIが実装を速くするほど、相対的に「何を・なぜ作るか」を決める経営判断の価値が上がっていく。技術が民主化されるほど、構想力と判断力が差を生むのです。

私たちはこの内製の知見を、BANSOU CTO™ をはじめとする支援を通じて、お客様の現場にもお届けしています。今回の採用システムは、その実践を自社で行った一例にすぎません。自分たちが毎日使うものを自分たちで作り、使いながら直し続ける。その当たり前を取り戻すことが、内製化の出発点です。

もし御社にも「数ヶ月かかると言われて止まっている案件」や、「納品されたけれど誰も使っていないシステム」があるのなら、それは本当に数ヶ月かかるのか、本当に使えないのか、一度問い直す価値があります。常識が変わったときに最初に動いた会社が、いちばん大きな果実を得ます。


伊藤翔太 IIWAYO.TECH